思いを巡らせて

ゆきのスピリッツ~創作の宴

裸の恩返し32

さぁ、なんと言う?
どう返事してくれる?

払ったものは返せませんというのか?
私は即答で納得がいかないと言うだろう。
生活が立ち行かないのだから必死だ。

それなのに私は最悪のケースに思いを巡らせていた。

「どうせ駄目さ。」

最良を希望するものの最低、最悪の結果が頭の中で渦巻く。
これはどうしたことか?
現実からの逃避にも似た諦めか。
いつでも利用され騙されてきた過去からの教訓か。

「嘘つき狸人間に支配されてるんだから仕方がない。」

こんなオチで生きているものだから息苦しいし行き場がない。
どんな些細な事も思い通りになりゃしない。
わがままで強引な狸人間の思うがまま。

狸人間と対峙する際は体がこわばり小刻みに体が震える。
小心者の私は受け止めがたい現実に恐怖心さえ抱いているのではないか。

さぁ、さぁ。
どうなんだ?

「大丈夫ですよ。」

Aは当然と言った面持ちで顔を少し上げ自慢気にも見える。
今まで同様のにこにこ顔もしっかり携えていて嘘には聞こえない。

なんだ?本当か?

私の体は一変した。
ぷーっと気は抜けガクガクと全身が緩みだすのがわかる。

「あ、あ、あぁ~、え?そうですか?いやー、助かります。」

「いえいえどういたしまして。」

こんなやり取りが数回続くとAは私に背を向けタッタッと小走りにこの場から去っていく。

私は居残ったBに問いかけた。

「あの、A、いやモトイ、今の店員さんどこか行ってしまいましたが…どうしたんでしょうかね?」


続く。